雪明りだけが頼りの寒い日だった。

山にまつわる不思議な話や体験談を集めた『 山怪(さんかい)』(山と渓谷社)が注目されている。刊行から約2年で10万部を超えるなど、この種の出版物としては異例のベストセラーになっている。1月中旬には続編の『山怪  弐 に 』が出され、すでに4刷、4万部に達している。著者は、30年以上にわたって秋田の 阿仁 あに マタギなど各地の猟師を追い続けてきたフリーカメラマンの田中康弘さん(58)。なぜ『山怪』が受けているのか。出版の経緯を著者に聞くとともに、広く受け入れられている理由などを探った。
◆雪の中に突然姿を現し、消えた「夜店」

 http://otaclip.com/ja/user/2627 http://postmap.org/user/hjkluik今から40年ほど前、秋田県・旧阿仁町打当内(うっとうない)(現・北秋田市)に住む泉健太郎さんが中学生の頃の話。クラブ活動で遅くなった泉さんは、学校からの帰路、打当内へと曲がる辻つじに差しかかった。その辻の辺りは、昔から狐きつねの住処すみかと言い伝えられている鬱蒼(うっそう)とした場所だった。

 http://dressconfess.com/user/njaydiur/ http://profile.ameba.jp/njaydiurある冬の日、いつものようにとっぷりと日が暮れて暗くなった帰り道。雪明りだけが頼りの寒い日だった。いつものように辻に近づく。

 「本当にあそこは怖かったもんなあ、暗くてよ。でもあの日は、そこさ曲がって、ぱって前見て驚いたんだぁ」